% -*- japanese-LaTeX -*- % % % Copyright (c) 2016, Hiroyuki Ohsaki. % All rights reserved. % % $Id: paper.tex,v 1.4 2020/08/27 16:31:45 ohsaki Exp ohsaki $ % \documentclass[twocolumn,dvipdfmx, a4paper]{ieicejsp} \usepackage{cite} \usepackage{insertfig} \usepackage{times} \usepackage{url} \usepackage{revhistory} \usepackage{amsmath} \usepackage{float} \usepackage{comment} \usepackage{algorithm, algpseudocode} %% \importrevisions \makeatletter \renewcommand{\thesection}{\@arabic\c@section} \renewcommand{\thesubsection}{\thesection.\,\@arabic\c@subsection} \renewcommand{\ext@subfigure}{lof} \renewcommand{\baselinestretch}{.6} \makeatother \title{{\bf 通信需要を考慮した量子ネットワークの\\リンク忠実度計測手法 に関する一検討}\\ {\normalsize A Study on Link Fidelity Measurement in Quantum Networks Considering Communication Demand }} \author{ 山近 駿 $^1$ \\ Shun Yamachika \and 柿原 悠人 $^2$ \\ Yuto Kakihara \and 井上 翔太 $^2$ \\ Shota Inoue \and 大崎 博之 $^2$ \\ Hiroyuki Ohsaki } \affliate{ 関西学院大学 工学部 情報工学課程 $^1$ \\ Department of Computer Science, School of Engineering, Kwansei Gakuin University \\ 関西学院大学 大学院理工学部研究科 情報工学専攻 $^2$ \\ Department of Informatics, Graduate School of Science and Technology, Kwansei Gakuin University \\ }%% fixme: 所属が正しいか確認しておいてください。 -shota \renewcommand{\baselinestretch}{0.005} \begin{document} \setlength{\parskip}{0.2pt} % 段落間の余白をゼロにする \maketitle \section{はじめに} %% ### トピックセンテンス %% 1. 次世代の情報通信基盤として期待される量子ネットワークの研究開発 %% が世界的に加速している。 %% 2. 量子ネットワーク上で高信頼な通信を実現するためには、環境ノイズ %% の影響を受けにくい、すなわち忠実度の高い量子リンクを選択することが %% 不可欠である。 %% 3. しかし、各リンクの忠実度を正確に推定するには多数回の量子測定が %% 必要であり、ネットワーク全体の性能を維持するためには、限られた測定 %% 資源をいかに効率的に配分するかが極めて重要な課題となる。 %% 4. この測定資源配分問題に対する有力なアプローチとして、複数リンク %% の中から最も忠実度の高い一本を効率的に特定する手法「LinkSelFiE」が %% 提案されている。 %% 5. LinkSelFiEは、すべてのリンク候補を等価な存在として扱う問題設定 %% において、測定コストを大幅に削減する優れた手法であるが、実用的なネッ %% トワーク運用では、各通信経路の重要度(通信需要)は一様ではない。 %% 6. 例えば、重要な機密情報を扱う通信経路や、高いサービス品質保証 %% (QoS) が求められる経路は、そうでない経路に比べて、その品質を保証す %% ることの価値が本質的に高い。 %% 7. したがって、ネットワーク全体の運用価値を最大化するためには、各 %% 通信経路の重要度を考慮し、価値の高い経路へ優先的に測定資源を配分す %% る、新たな資源配分フレームワークが求められる。 %% 8. そこで本研究では、通信需要を考慮したリンク忠実度計測という新た %% な問題を定義し、その解決を目的とする。 %% 9. 具体的には、各通信経路の「価値」をその重要度と推定忠実度の積と %% して定量化し、ネットワーク全体の総価値を最大化する最適化問題として %% 定式化する。 %% 10. この問題に対する効率的かつ実用的な準最適解法として、広域的な探 %% 索と集中的な活用を組み合わせた「二段階貪欲法 (Two-Phase Greedy %% Method)」を提案する。 %% 11. 本稿の貢献は、通信需要という新たな評価軸を導入した問題設定の提 %% 案、およびその有効な解法の提示にあり、シミュレーション評価を通じて、 %% 提案手法が既存手法に比べてネットワーク全体の総価値を大幅に向上させ %% ることを定量的に示す。 近年、量子コンピュータや量子通信といった量子技術の研究開発が世界的に加 速している。中でも、量子ビットを情報媒体として遠隔地間で伝送・共有する 量子ネットワークは、盗聴不可能な量子鍵配送 (QKD) や、分散量子コンピュー ティング、高精度な量子センシング網を実現する次世代の情報通信基盤として 大きな期待が寄せられている。量子ネットワークの究極的な目標は、地球規模 での高忠実度な量子状態の共有、すなわち量子インターネットの実現にある。 しかし、その実現に向けた道のりには数多くの技術的課題が存在する。最も根 源的な課題の一つが、量子情報の担い手である量子ビットの脆弱性である。量 子ビットは、光ファイバ等の伝送媒体や周辺環境との相互作用(環境ノイズ) によって、その繊細な量子状態が容易に破壊されてしまうデコヒーレンスと呼 ばれる現象に常に晒されている。この状態の劣化は通信品質の低下に直結し、 忠実度の低いリンク、すなわち入力された量子状態を正確に出力できないリン クを用いては、意味のある通信を行うこと自体が困難となる。したがって、量 子ネットワーク上で高信頼な通信を実現するためには、ネットワーク内に物理 的に存在する多数のリンクの中から、環境ノイズの影響を受けにくく、忠実度 の高い量子リンクを効率的に選択することが不可欠である。 ここで重要となるのが、各リンクの忠実度をいかにして知るかという問題であ る。リンクの忠実度は、プロトタイプの量子もつれ光子源の性能揺らぎや、敷 設された光ファイバの温度変化といった動的な要因によって時間的に変動しう るため、ネットワークを運用する上で定期的な計測と推定が不可欠となる。し かし、この忠実度を統計的に十分な精度で推定するには、対象リンクを用いて 多数回にわたる量子状態の生成、伝送、そして測定を繰り返す必要がある。 この一連のプロセスは、ネットワークの貴重な資源、すなわち測定時間や量子 ビットそのものを大量に消費する。測定に費やされる資源は、本来のデータ通 信に利用できないため、過度な測定はネットワーク全体の通信スループットを 著しく低下させる。ここに、忠実度推定の精度とコストの間に存在する根本的 なトレードオフが生じる。この制約の下で、限られた測定資源をネットワーク 上のどのリンクに、どれだけ配分するかを決定する測定資源配分は、量子ネッ トワークの実用化に向けた極めて重要な最適化問題となる。 この測定資源配分問題に対する有力なアプローチとして、Liuらによって提案 されたLinkSelFiEが存在する \cite{Liu24:INFOCOM}。LinkSelFiEは、強化学 習における多腕バンディット問題の知見を応用し、複数の並列リンクの中から 最も忠実度の高い一本を特定する際に、有望なリンクの測定回数を動的に増や し、そうでないリンクの測定を早期に打ち切ることで、総測定コストを大幅に 削減しつつ高い特定精度を実現する。これは、同一ノードペア間に複数の物理 リンクが存在する状況において、最良のリンクを効率的に見つけ出すという問 題設定に対する、非常に洗練された解法である。 LinkSelFiEは、すべてのリンク候補を等価な存在として扱い、その中から純粋 に最も物理的な品質が高いリンクを探し出すことに特化している。しかし、よ り広域で多様なアプリケーションが動作する実用的なネットワーク運用の観点 からは、異なる課題が見えてくる。実際のネットワークでは、各通信経路の重 要度(通信需要)は一様ではない。例えば、国家の安全保障に関わる量子暗号 通信に用いられる経路と、基礎科学実験のための低優先度なデータ転送に用い られる経路とでは、その通信品質を保証することの価値が本質的に異なる。前 者の品質がわずかに低下することは許容しがたい一方、後者であれば多少の品 質劣化は許容できるかもしれない。 このように、アプリケーションの要求やサービスレベル合意 (SLA) に応じて、 各通信経路には異なる重要度が設定されるのが自然である。このような状況に おいて、すべてのリンクを等価に扱う従来のアプローチでは、重要度の低い経 路の忠実度を高精度に推定するために貴重な測定資源を費やす一方で、本当に 重要な経路の品質保証が疎かになるという、ネットワーク全体の運用価値を損 なう非効率な資源配分を招きかねない。したがって、ネットワーク全体の運用 価値を最大化するためには、各通信経路の重要度を定量的な指標として導入し、 価値の高い経路へ優先的に測定資源を配分する、新たな資源配分フレームワー クが求められる。 そこで本研究では、通信需要を考慮したリンク忠実度計測という新たな問題を 定義し、その解決を目的とする。我々は、各通信経路の価値を、その経路が担 う通信の重要度と、経路内で最も忠実度の高いリンクの推定忠実度の積として 定量化する。この定義に基づき、本研究が取り組む問題を与えられた総測定予 算の制約下で、ネットワーク全体の総価値を最大化する測定資源配分を決定す る最適化問題として定式化する。 この問題は、どのノードペア(通信経路)に資源を配分し、さらにその中でど のリンクを測定するかという組合せ最適化問題であり、厳密解を求めることは 計算論的に極めて困難である。そのため、本稿ではこの問題に対する効率的か つ実用的な準最適解法として、**二段階貪欲法 (Two-Phase Greedy Method)** を提案する。本手法は、第一段階(広域探索フェーズ)で、ごく少量の測定資 源を全リンクに広く薄く配分して忠実度の初期推定値を得る。続く第二段階 (活用フェーズ?)では、第一段階で得られた初期推定忠実度と各経路の重要度 から算出される価値スコアに基づき、最も価値創出が期待される有望な経路群 に残りの測定資源を集中的に投下する。この戦略により、計算コストを低く抑 えつつ、準最適な資源配分を実現する。 本研究の貢献は以下のとおりである。 \begin{itemize} \item 従来の物理的なリンク品質の推定問題を発展させ、通信需要という経済 的・運用的な価値尺度を導入した、より実践的なネットワーク総価値最大化 問題を初めて定式化した。 \item 上記の問題に対する効率的な近似解法として、二段階貪欲法を提案した。 これは、探索と活用を明確に分離することで、大規模ネットワークにおいて も実用的な計算時間で高品質な解を得ることを可能にする。 \item 量子ネットワークシミュレータを用いた評価実験を通じて、提案手法が、 通信需要を考慮しない既存のアプローチに比べて、ネットワーク全体の総価 値を大幅に向上させることを定量的に明らかにした。 \end {itemize} 本稿の構成は以下の通りである。2章で本研究が対象とする問題モデルと目的 関数を定義する。3章では提案手法である二段階貪欲法の詳細を述べる。4章で シミュレーション評価の結果を示し、提案手法の有効性を考察する。最後に5 章で結論と今後の課題を述べる。 \section{通信需要を考慮したリンク忠実度計測問題} %% 本問題は通信需要の大きさが異なる複数ノードペアに対し最適な測定資源配分 %% を決定する問題として定式化される。これは単一ノードペア間の最高忠実度リ %% ンク特定問題を、より現実的な状況へ拡張したものである。 %% 本問題の入力はネットワーク構成と総測定予算である。具体的には単一の対象 %% ノード $S$ と $N$ 個の隣接ノード集合、各ノードペア $(S, D_n)$ 間の並列 %% リンク集合 $L_n$、各ノードペアの重要度 $I_n$、そして総測定予算 $C$ が %% 与えられる。ただし、各リンク $l_{nj}$ の真の忠実度 $f_{nj}$ は未知であ %% る。 %% 問題の出力は測定予算内で選択された価値ある通信経路の集合である。アルゴ %% リズムは価値が高いと判断した $K$ 個のノードペア集合 $S_{sel}$ を決定す %% る。そして選択された各ノードペア $n_k$ において最も忠実度が高いと特定 %% されたリンク $l_{nk}^*$ とその推定忠実度 $\hat{F}^*_{nk}$ を出力する。 %% 本問題の目的は目的関数 ($\text{maximize} \sum_{n_k \in S_{sel}} I_{n_k}\hat{F}^*_{n_k}$) %% で定義されるネットワーク全体の総価値を最大化することである。これは選択 %% された全経路の価値すなわち重要度と忠実度の積の総和を示す。 %% \radd{このとき、制約条件は、全リンクにおける総測定コストが総測定予算 %% $C$ を超えないこと、すなわち %% $\sum^N_{n=1} \sum_{l \in L_n} Cost(l) \leq C$ %% で与えられる。 %% } 本問題は、通信需要 (重要度 $I_n$) が異なる $N$ 個のノードペア$(S, D_n)$に対し、総測定予算 $C$ の制約下で、ネットワーク全体の総価値を最大 化する測定資源配分を決定する問題である。各ノードペアは並列リン ク集合 $L_n$ を持ち、各リンク $l_{nj}$ の真の忠実度$f_{nj}$ は未知とす る。 本問題は、価値が高いと判断したノードペア集合 $S_{sel}$ 選択し、 各ペア $n_k \in S_{sel}$ で最高と推定されたリンク忠実度$F^*_{nk}$ を用 いて、以下の目的関数で定義される総価値を最大化することである。 {\footnotesize \begin{align} \text{maximize} \sum_{n_k \in S_{sel}} I_{n_k}\hat{F}^*_{n_k} \end{align} } このとき、制約条件は、全リンクにおける総測定コストが総測定予算$C$ を超 えないこと、すなわち $\sum^N_{n=1} \sum_{l \in L_n} Cost(l) \leq C$で 与えられる。 \section{提案手法 : 二段階貪欲法(Two-Phase Greedy)による資源配分} %% 本稿では上記の問題を解くためにTwo-Phase Greedy手法を提案する。本手法は %% 広域的な探索と集中的な活用の二段階処理により限られた測定資源を効率的に %% 配分する。第一段階では全リンクに対して少量の測定を行い忠実度の初期推定 %% 値を低コストで得る。これによりネットワーク全体の品質分布を大局的に把握 %% する。 %% 第二段階では第一段階の結果を基に残りの測定資源を価値が高いと見込まれる %% 有望なリンクへ集中的に投下する。具体的には各ノードペアの重要度 $I_n$ %% と初期推定忠実度 $\hat{f}_n$ の積から価値スコアを計算する。そして価値 %% の高いノードペア内のリンク群にのみLinkSelFiEを適用し詳細な測定を行う。 %% この貪欲戦略により測定資源は価値創出の期待値が高い経路の特定へ自動的に %% 集中し総価値の効率的な最大化が期待できる。 本稿では、上記の問題を解くための効率的な近似解法として、広域的な探索と 集中的な活用を組み合わせた二段階貪欲法を提案する。この手法は、 組合せ最適化問題に対する現実的なアプローチとして、限られた測定資源を準 最適に配分し、計算コストを抑えつつ高い性能を実現することを目的とする。 二段階貪欲法の第一段階は、広域探索フェーズである。ここでは、限ら れた測定予算の一部を、対象となる全てのリンクに少量ずつ均等に配分するこ とで、各リンクの忠実度の初期推定値を低コストで得る。 本手法の第二段階は、活用フェーズである。ここでは、広域探索フェーズで得 られた初期推定忠実度と各ノードペアの重要度の積から価値スコアを算出し、 このスコアが高い有望なノードペア内のリンク群に残りの測定資源を集中的に 投下する。具体的には、各ノードペア $n$ に対して価値スコア $I_n\hat{f}_n$を計算し、スコアの高い順にノードペアを選択する。 %% そして、選 %% 択されたノードペア内のリンク群に対してのみ、先行研究である LinkSelFiE %% を適用し、最も忠実度の高いリンクを高い精度で特定する。 %% この貪欲戦略により、測定資源は価値創出の期待値が高い経路の特 %% 定へと自動的に割り当てられ、ネットワーク全体の総価値が効率的に最大化さ %% れることが期待できる。 \section{実験} \begin{figure}[t] \centering \begin{minipage}[b]{0.235\textwidth} \centering \includegraphics[width=\textwidth]{graphA.eps} \vspace{0.5em} {\scriptsize 図1: 隣接ノード数3における\\測定予算と総価値スコアの関係} \label{fig:r3} \end{minipage} \hfill \begin{minipage}[b]{0.235\textwidth} \centering \includegraphics[width=\textwidth]{graphC.eps} \vspace{0.5em} {\scriptsize 図2: 隣接ノード数5における\\測定予算と総価値スコアの関係} \label{fig:r5} \end{minipage} \end{figure} 本章では、提案手法がネットワーク全体の総価値を効率的に最大化できること を示すため、量子ネットワークシミュレータ NetSquid を用いた評価実験を行っ た。 本実験では、1つの対象ノードに接続する隣接ノード数が $N=3$ および $N=5$ の2種類のスター型トポロジを用いた。各ノードペア間には5本のリンクが存在し、そのうち1本の平均忠実度を $0.95$、残りの4本を $0.85$ とする正規分布に従って忠実度を設定した。各ノードペアの重要度 $I_n$ は、区間 $[0, 1]$ の一様乱数により決定した。 二段階貪欲法の設定として、広域探索フェーズでは、各リンクに対して 初期予算($t_0=40$)を割り当て、全リンクを均等に測定し初期推定値を得る。 活用フェーズでは、価値スコアによって選択されたノードペア内のリンク 群に対して、LinkSelFiEを適用することで、最も忠実度の高いリンクを特定 する。 比較手法として、Uniform-LinkSelFiEおよびUniform-Naiveを用いた。前者は、 LinkSelFiEの枠組みで測定予算を全ペアに均等配分し、リンクが一意に定まれ ばそのリンクを、そうでなければ推定忠実度が最大のリンクを選出する手法で ある。後者は、予算を全ペア・全リンクに均等配分する手法である。 評価指標には、測定予算を変化させた際のネットワーク総価値スコアを用い、 各測定予算の値について、独立なシュミレーションを 20 回実施し、その平均 値と 95 \% 信頼区間を算出した。 図1および図2の結果から、提案手法は比較手法よりも高い総価値スコアを達成し、価値の高いリンクへ優先的に資源を配分することが示された。ただし、実験で検証した範囲を超えて予算をさらに増加させた場合には、価値の低いリンクにもコストをかけてしまうため、スコアの上昇率は鈍化し、追加投資による価値の向上は限定的になると考えられる。 %% 隣接ノードが 3 つの条件での結果 (図 1) では、 %% 測定予算が少ない初期段階でスコアは急激に上昇し、その後、上昇率は緩やか %% になる傾向が見られた。これは、提案手法が価値の高いリンクへ優先的に資源 %% を配分するため、初期の投資で大きな効果が得られる一方、有望なリンクの特 %% 定が進むにつれて追加投資による価値の向上が限定的になることを示唆してい %% る。この結果は、特に資源制約が厳しい状況において提案手法が有効であるこ %% とを示している。 %% また、隣接ノードが 5 つの条件での結果 (図 2) では、利用可能な予算が増 %% えるにつれ、提案手法と比較手法との性能差がより拡大する結果が得られた。 %% 探索対象となるリンクの総数が増加すると、各リンクに割り当て可能な平均測 %% 定資源は相対的に減少し、資源配分の効率性がより重要となる。このような厳 %% しい資源制約下において、通信需要と品質に基づいて資源を的確に配分する提 %% 案手法の優位性がより際立つためであると考えられる。以上の結果から、提案 %% 手法は、特に大規模で資源制約の厳しい量子ネットワークにおいて、全体の価 %% 値を最大化する上で高い有効性を持つことが示された。 %% 本章では、通信需要(重要度)と忠実度の両方を考慮した資源配分手法の有効 %% 性を、シミュレーションによって定量的に評価する。具体的には、限られた測 %% 定予算のもとで、提案手法がネットワーク全体の総価値スコア($\sum I_n %% \cdot \hat{f}_n^*$)をどれだけ効率的に最大化できるかを検証する。 %% シミュレーションには、量子ネットワークシミュレータである NetSquid を用 %% いた。評価対象とするネットワークトポロジは、1つの対象ノードと、それに %% 接続する隣接ノードの数が3つ($N=3$)または5つ($N=5$)の2種類である。 %% 各ノードペア $(S, D_n)$ の間には、それぞれ5本の独立な量子リンクが存在 %% すると仮定する。リンクのノイズモデルにはデポラライジングチャネルを適用 %% し、リンク忠実度は、平均0.95のリンク1本と平均0.85のリンク4本からなる正 %% 規分布に従って生成された。 %% また、各ノードペアに割り当てられる重要度 $I_n$ は、通信タスクの優先度 %% を表すパラメータとして、区間 $[0, 1]$ における一様乱数により設定した。 %% なお、各評価点について20回の独立なシミュレーション試行を行い、その結果 %% の95\%信頼区間をグラフ中に縦線で示している。 %% 実験結果より、提案手法はすべての測定予算条件において比較手法よりも高い %% 総価値スコアを達成しており、その有効性が確認された。一方で、測定予算の %% 増加に伴ってスコアの上昇率は徐々に低下する傾向が見られた。これは、提案 %% 手法が価値の高いリンクに優先的に測定資源を集中させる戦略を取るため、初 %% 期段階において効果的な投資が行われる一方で、残されたリンク群には相対的 %% に低い価値しか見込めないためである。この結果から、提案手法は特にリソー %% ス制約が厳しい状況において有効であることが示唆される。 %% 図\ref{fig:r3}および図\ref{fig:r5}は、それぞれ隣接ノードが3つ($N=3$) %% および5つ($N=5$)の場合における、総価値スコアと測定予算の関係を示して %% いる。隣接ノード数を3から5へ増加させた場合の評価では、提案手法と比較手 %% 法との性能差がより顕著に拡大した。隣接ノード数が増加すると、各ノードペ %% アに割り当て可能な平均測定資源は相対的に減少する。このような厳しい資源 %% 制約下において、需要と品質に基づいて資源を的確に配分する提案手法の優位 %% 性がより際立ったものと考えられる。以上の実験結果から、提案手法は通信需 %% 要とリンク品質に基づいて測定資源を効率的に配分することにより、特に資源 %% 制約が厳しい、あるいはネットワーク規模が大きい状況において、全体の価値 %% を最大化する上で高い有効性を持つことが示された。 \vspace{-0.4em} % ← この行を追加(-0.8em 〜 -1.2em で調整) \section*{謝辞} 本研究の一部は JSPS 科研費 24K02936 の助成を受けたものである。 \vspace{-0.5em} % ← この行を追加 \renewcommand{\em}{\it} \bibliographystyle{ieeetr} \bibliography{bib/quantum} \end{document}